昨今メディアで取り上げられているような性加害問題に対する企業内での対応において、最初の相談窓口が ①一般社員 であった場合に気を付けるべき点と ②産業保健スタッフ(産業医・保健師等)が相談を受けたが、本人が会社への情報提供に同意しない場合 に分けて検討します。※産業保健スタッフが相談を受け、本人が会社への情報提供に同意する場合は、当然コンプライアンス部門に繋がりますので今回は割愛します。
① 相談窓口が一般社員だった場合の対応
想定される状況:
- 一般社員(同僚や上司)が被害者から直接相談を受けた。
- 被害者は正式な通報をためらい、相談レベルに留めたいと考えている。
- 相談を受けた社員は、対応方法がわからず戸惑っている。
推奨される対応
(1) 被害者の意向を尊重する
相談を受けた社員は、強制的に会社や上層部へ報告してはいけない。被害者が望まない場合、個人情報や被害内容を第三者に漏らさないよう慎重に対応する。
(2) 適切な相談窓口へ案内する
社内のハラスメント相談窓口・コンプライアンス部門
→ 企業に設置されている場合、相談だけでも可能な窓口があることを伝える。
産業保健スタッフ(産業医・保健師)
→ 健康や精神的な影響がある場合は、専門的な支援ができることを案内する。
社外の専門機関
→ 企業内での相談を望まない場合、労働基準監督署、男女共同参画センター、弁護士相談窓口 など、外部の機関を紹介する。
(3) 本人の意思確認を徹底する
「会社に報告するか」「どこまでの情報を開示するか」について、被害者本人の意向を確認する。「通報しないことでさらなる被害が発生する可能性がある」場合も含め、冷静に選択肢を提示する。
(4) 記録を残す(慎重に)
相談を受けた社員は、記録を残すべきか慎重に判断する。もし会社が正式に調査を開始する場合、記録が証拠となる可能性があるため、「いつ、誰が、どのような相談を受けたか」最低限のメモを残すのも有効。
(5) 会社の対応を確認し、必要なら再度被害者と相談
会社側が適切な対応をとるかどうかも確認する。
→ 場合によっては、相談窓口の対応が適切でない可能性もあるため、被害者と定期的に状況を確認することが重要。
② 産業保健スタッフが相談を受け、本人が会社への情報提供に同意しない場合
想定される状況:
- 被害者が産業医・保健師に相談したが、「会社には報告しないでほしい」と要望している。
- 産業保健スタッフとしては、被害者の健康を守る責任があるが、企業のリスク管理のための情報共有が難しい。
推奨される対応
(1) 守秘義務の遵守
産業医や保健師には守秘義務があり、本人の同意なしに情報を会社に提供することは原則不可。本人の意思を最大限尊重し、同意なしに企業側へ通報しない。
(2) 被害者への説明
会社に情報提供しないことで起こりうるリスク(加害者の再犯防止策がとれない、被害者の安全が確保できないなど)を説明する。ただし、被害者のプレッシャーにならないよう配慮しながら、報告の選択肢を提示する。
(3) 会社と情報共有せずにできる支援
メンタルヘルス支援
→ 産業保健スタッフによる継続したカウンセリング。
医療機関の紹介
→ 身体的・精神的健康被害へのより専門的な対応が必要なら、外部医療機関への受診を促す。
社外の支援機関の紹介
→ 弁護士、労働基準監督署、NPOなどの支援を紹介する。
(4) 例外的に会社へ情報共有が必要なケース
産業保健スタッフが本人の同意なしに会社へ情報提供するケースは、以下の例外を除き基本的に認められない:
生命や健康に重大な危険がある場合
例:被害者が極端に精神不安定で自傷のリスクがある。
例:加害者がエスカレートし、暴力や脅迫のリスクがある。
これらの場合、最小限の情報で緊急対応が必要と判断し、労働安全衛生法などに基づき会社側へ伝達する。
会社が既に問題を認識しており、企業の対応が求められる場合
例:「別の部署や他の社員からも同じ加害者についての苦情が寄せられている」など、複数の被害者がいる可能性があったり、会社として放置すると更なる被害者が発生する可能性があったりと、企業として組織的な対応が求められる場合。
被害者の匿名性を確保しつつ、組織としてのリスク管理を促す方法を検討する。
(5) 被害者の意思を尊重しながら再度支援の可能性を探る
一度「会社には報告しない」と決めた場合でも、後に被害者の考えが変わることがある。被害者が「会社への報告を考え直す」機会を持てるように、定期的にフォローアップを行う。
まとめ
① 相談窓口が一般社員だった場合
- 被害者の意向を最優先する
- ハラスメント窓口や産業保健スタッフへ案内
- 会社へ報告するかどうかを慎重に確認
- 記録を残すかは被害者の意向に配慮しながら判断
② 産業保健スタッフが相談を受けたが、本人が会社への情報提供を拒否した場合
- 守秘義務を厳守
- 会社報告のリスクとメリットを説明
- 医療機関やカウンセリングを紹介
- 本人の安全確保が必要な場合は最小限の情報で会社と連携
このように、どのケースでも 「被害者の意思の尊重」 が最優先されます。ただし、被害者の安全確保や企業の責任を考慮し、例外的に最低限の情報を共有する判断が求められるケースもある ことを考慮する必要があります。